病院に行くほどではないけれど、体のダルさがしばらく続いたり、疲れが抜けずに寝つきが悪かったり…と、診察を受けても病名はつかない程度の不調が続くことはありませんか? こんな症状は、「不定愁訴」と呼ばれるそうです。
今回はこの不定愁訴について、塩崎クリニックの塩崎哲三先生に教えてもらいました。
「女性にとって30~40代は仕事が忙しくてストレスがたまりやすかったり、結婚や妊娠・出産をしたりと、ホルモンバランスが大きく変化しやすい時期でもあります。代表的な症状である『だるさ』のほかに、頭痛やじんましんなども、特に訴えが多い症状の一つです」
人により訴える症状が様々であることが不定愁訴の特徴のため、以前はうつ病やパニック障害、自律神経失調症、更年期障害と診断されることもあったそうです。
漢方では、「体を温めて、人間が本来持っている治癒能力を最大限に発揮させる」という考え方をします。そのため、症状があって病院を受診しても診断のつかない不定愁訴や、「病院に行くほどではない気がするけれど、何だか調子が悪い…」というようなときは、まさに漢方薬の得意分野!
「例えば生理に関する治療でよく使われる漢方薬は、『当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)』『加味逍遙散(かみしょうようさん)』『桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)』の3種類です。これらは“婦人三大処方”と呼ばれています。それぞれに配合されている生薬の特徴から患者さんの症状に合わせて選び、さらに別の漢方薬も組み合わせて処方を行います」
また、生理中ではなく、生理前の不快感にも、漢方が役立つケースがあるのだとか。
「生理前に便秘や下痢、頭痛、イライラなどの症状を訴える女性は少なくありません。そのような月経前症候群の場合、症状があまりに強い場合にはホルモン治療も必要かもしれませんが、漢方薬で症状が軽快する人も多くいるんですよ」
「頭痛や生理痛などの腹部の痛みに対して、安易に市販の鎮痛剤を常用することはできるだけ避けてほしい」と塩崎先生。解熱鎮痛剤は痛みを抑えるとともに、体を冷やす方向に持って行くことが多いもの。特に女性は体の中に卵巣、つまり卵を持っている状態なので、常に冷やさず温めることを心がけるとよいそう。
「東洋医学は、体が本来持っている抵抗力を引き出すことを目的とした治療をします。たとえば風邪をひいて熱が出ているのであれば、“体がウイルスを除去しようとして熱を上げている”と考えて、さらに体を温める力を持つ生薬を処方します。鎮痛剤で無理に熱を下げてしまうと、自然の免疫反応を止めてしまうことにもつながりかねません」
塩崎先生によれば、漢方で不定愁訴を治療するうえで、診察が肝心なのだそう。
「漢方薬は、普段の生活環境や個人の体質によって処方する薬が異なります。そのため詳しい問診が必要になり、一般的な西洋医学の診察より少し時間がかかります」
実証・虚証などといった漢方学的な診断や、体質に合う漢方薬を見定めるためにも、しっかりした問診が必要。信頼できる主治医のもとで、すっきりとした春を迎えてみませんか?
順天堂大学卒業。同大学関連病院での勤務後、2007年に塩崎クリニックを開院。現在でも順天堂大学に籍を置き、胃腸・消化器を専門としている。塩崎クリニックでは、胃腸・消化器から外科まで幅広い診療を行う。開院当時から、漢方薬も処方している。