線香や匂い袋など、日本人の暮らしに根づいているお香。その原料は、漢方薬に使われているものが多いことをご存じですか? みなさんが知っているようで知らないお香について学んでみましょう。
前回に引き続き教えてくれたのは、お香作りのスペシャリストである香司(こうし)の岡本英子さん。そもそも、お香の起源はどのようなものなのでしょうか?
「お香は538年頃、仏教伝来とともに日本に伝わったといわれています。現在もお寺で焼香や線香を焚くように、仏教儀式に欠かせないものとして用いられるようになりました。また、日本最古の文献『日本書紀』には、595年に淡路島に香木が漂着したとの記録もあります。ちなみに香木とは、その名のとおり香りがある木のこと。『沈香(じんこう)』や『白檀(びゃくだん)』があり、お香に欠かせない原料の一つです」
当時は、主に細かく刻んだ香木などを直接火で燃やしていたと考えられているそう。現代の焼香のように、神仏に祈る前にその空間と自らの心身を清めるためにお香を焚く、宗教的な意味合いが強いものでした。
「奈良時代になると、中国の高僧・鑑真和上が仏教を広めるために来日しました。医薬の知識が豊富だった鑑真は、お香の原料や調合技術、さらに漢方薬の処方も伝えたといわれています。その頃、漢方に使われる薬は『香薬(こうやく)』と呼ばれ、お香と薬は近い関係にあったようです。そして、お香の調合技術を学んだ僧侶や貴族たちによって、お香は日常生活の中でも楽しむものとして広がっていきました」
岡本さんによれば、最近は合成香料を使ったものが多いというお香ですが、もともとは「沈香」や「白檀」、「丁子(ちょうじ)」など、数十種類以上もの天然原料から作られるそう。
「中国、インド、インドネシアなど東南アジアを中心に産出されるお香の原料は、木そのものに香りがある『香木』のほか、樹皮や実、根などを乾燥させた『植物系香料』、木の樹脂から採れる『樹脂系香料』、ジャコウ鹿などの分泌物を採取した『動物系香料』などに分類され、漢方薬や香辛料として使われているものが多くあります」
植物だけではなく、動物由来のお香もあるんですね! さまざまな原料のなかから、ぜひお気に入りの香りを見つけてくださいね。
大学在学中に「香水」をテーマに香りについて研究。その後「Air Aroma Japan」のブランドマネージャーとして、ホテルや商業施設などの香りの演出やPR、アロマ講座講師などを担当。2015年より、「薫物屋香楽(たきものやからく)」認定の香司として活動を開始。お香の専門家として、お香づくりのワークショップなどを開催している。「継未-TUGUMI-香塾」講師。漢方養生指導士初級。