最近ではお手頃な価格で販売されているかわいい器もたくさんありますが、大人になった今だからこそ、本格的な「漆塗りの器」が気になるように…。でも、漆器の扱い方は難しそうな気もして、手を出しにくいですよね。
そこで今回は、会津漆器の企画・販売を行っている「漆とロック」代表の貝沼さんに、漆器の魅力やお手入れの方法について教えていただきました。
「一般的に漆器とは、木で作られた素地に漆を塗り重ねて作った生活工芸品のことです。漆は、漆の木から採れる樹液で、15年かけて育てた木から牛乳瓶1本分(約200ml)しか採れないほど貴重なもの。しかも漆の木は、他の植物に負けやすいので、人の手をかけて育ててあげることが大事です。漆の液が採れるころになると、“漆掻き職人”という専門の職人さんが、1本1 本の木の状態を見極めながら、約半年かけて少しずつ漆を採取します」
長い時間をかけて木を育て、職人さんたちが大変な思いをしながら採取しているのですね…。漆の採取量が少ないことから、漆器が高価であることも納得できます。
「その貴重さということだけでなく、漆は、自然の不思議な力が詰まっているすごい素材なんです。一度乾いてしまえば、漆を溶かすことができる溶剤はないといわれるほど丈夫で硬くなり、強い酸にもアルカリにも強いのが特徴です。抗菌作用だってあります」
「漆の液は、もともとは漆の木自らが身を守るために作り出しているもの。その力を上手に活かす知恵と技術を、私たち日本人は、なんと縄文時代から培ってきました。それは、日本が木の国だからです。私たちは身の回りのものをほとんど木で作って暮らしてきました。木を器として使うには、コーティングは欠かせません。そのコーティング材として、自然の中にある最高の材料が漆だったというわけです」
漆は洗濯物が乾くのとは逆で、70%以上の湿度によって固まる(温度も20度以上が必要)という特殊な性質を持っているとのこと。しっとりした森の中でちょうど固まるようにできているのでしょうか…漆って不思議!
漆の器の良さや特徴はどういったものでしょうか?
「個人的には、漆器の最大の魅力は、その“手触りや口当たり”だと思います。漆は人の肌にとても近い塗料と言われ、艷やかなのに、手に持つと独特のしっとり感があります。西洋の食事はお皿をテーブルに置いたまま食べますが、日本の食事は、器を手に持って口に付けて食べますよね。その時に心地よくできているのが漆器だと感じます。持った時の手触りや口当たりの気持ちよさ、木のぬくもり、食卓に置いた時のコトンという軽やかな音、そして何より主役の料理を引き立てる美しさ。五感で食を楽しむことのできる器だと思います」
さらに、漆の器は断熱性があるので、熱い汁物やご飯を入れても手が熱くなく、中身は冷めにくいという特徴があるそうです。逆にアイスクリームなど冷たい物を入れた場合は、器の内側が冷たいまま保たれ、外側に水滴がつきにくい利点もあると、貝沼さんは言います。
「いい漆器かどうかは、やはり“価格”に反映されます。お椀であれば、大体1万円以上のものであれば、まず間違いありません。よく1000円くらいのお椀が漆器のように売られていることもありますが、それはプラスチックにウレタンなど化学塗装のものがほとんどです。いい漆器を作るには、十分に乾燥させた天然の木を使って素地を作り、丁寧に下地をしているかどうかで、長く使ってもヘタりにくい丈夫な器になります。それは外からは見えにくいので、信用のあるところで、きちんとした価格のものを買うことが一番です」
繊細なイメージのある漆器ですが、洗い方はどのようにしたらいいでしょうか?
「漆器を洗うのは難しくありません。手洗いが基本ですが、普通の洗剤とスポンジを使っていただいてOKです。優しく洗って、布巾でしっかり拭いてあげると美しさが長持ちします。器の手触りが優しいため、食後に洗い物をするのが楽しく感じられるのも漆器のいいところです」
長く使い続けるために、どんなことに気をつけてお手入れしたらいいのでしょうか?
「漆の器は売られている段階は完成形ではなく、10年くらいかけて塗膜が硬く透明に変化し続けていきます。そのため、使い込むほどに発色がよく、ピカピカとしたツヤが出てきます。漆器は乾燥が苦手なので、しまい込まずに『使っては洗う』ことを繰り返すのが、一番のメンテナンスになります。存分に使い込んだ後は、塗り直しをすれば新品同様に生まれ変わるのが漆器の良さ。器が欠けたり割れてしまったりしても、漆で継いでお直しができます。気に入ったものを見つけて、ずっと一緒に過ごして、次の世代に受け渡していくことができるんですよ。それを考えたら、漆器は決して高くないと思います」
最後に、初めての漆器選びをするときのオススメを教えてください。
「初めて漆器を選ぶのであれば、個人的には“飯椀”をオススメしたいです。漆器は保湿性があるので、よそった後ご飯がいつまでもふっくらとして、見た目も格段と美味しそうになります。きっと漆器ならではの良さの虜になってしまいますよ」
つい大切にしまい込みがちですが、修理が可能なら怖がらずに日常遣いができそうです。これからずっと食卓を共にする、自分だけの漆器を見つけてみませんか?